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校長コラム

Negative Capability

*今回の話は、1月の校長講話でお話しした内容とほぼ重なるものである。

 Negative Capability、ネガティブ・ケイパビリティと言う言葉、皆さんは聞いたことがあるだろうか。私も以前から知っていたわけではなく、今年の1月の新聞で初めてお目にかかった言葉である。ネガティブは「否定的な」とか「負の」という意味で、ケイパビリティは「能力」、つまり直訳すると負の能力となるが、これでは何のことかピンとこない。ネガティブの反対言葉はポジティブ。ポジティブ・ケイパビリティという言葉も、実は存在する。直訳すれば正の能力だが、これもピンとこない。ポジティブ・ケイパビリティとは、「情報を収集する能力」「分析する能力」「計画を立てる能力」「資料を作成する能力」「スピーチをする能力」など、「物事を処理する能力」だそうだ。学校の授業で主に育てるものの多くは、このポジティブ・ケイパビリティである。テストは、決められた時間の中でどこまで理解できているかを問うわけなので、このポジティブ・ケイパビリティをどこまで発揮できるかを調べているわけだ。一方のネガティブ・ケイパビリティとは、「答えを急がない力」「答えの出ない事態に耐える力」を指す。ある本には、答えの出ない事態に耐える「勇気」とも書かれている。答えの出ない事態に耐えることが勇気を伴うことと聞いて、実感できるだろうか?答えがわからないと、もやもやし、早く答えを教えてと感じるものだ。これは生徒でも大人でも同じで、多くの人が感じるもの。これは人間の進化の結果でもあるそうだ。人類は、その歴史の中で、ほぼ予測可能な生活をしてきたため、私たちの脳はパターンの認識や物事を習慣にする点において非常に優れた進化を遂げてきた一方、不確実性を嫌うように進化してきた。その結果、物事が予測・コントロールしにくくなると、強い脅威を感じるそうだ。脅威を感じると脳は「闘うか、凍りつくか、逃げるか」というモードになり、モチベーションや集中力、協調性などが低下してしまう。わからないという状態も不確実な状態なので、脳に強い脅威を与えるのだろう。別の学者によると、意味がわからない場合、わかりたいと思うのは心の根本的な傾向で、わかったという信号が出ると、心に快感、落ち着きが生まれる。したがって人間は「わかる」「わかった」を求めるそうだ。

 「情報を収集する能力」「分析する能力」「計画を立てる能力」「資料を作成する能力」「スピーチをする能力」などのポジティブ・ケイパビリティだけでは不十分だ、もう一つのネガティブ・ケイパビリティも大切にすべきだというのが、1月に私が出会った新聞記事の主張である。世の中には明確な答えのある問題ばかりではない。むしろ解決できない問題の方が何倍も多いのではないか。早く答えを出そうとすると見落とすものもある。いろいろな面から多角的に、長期的な視野でものを見つめることも大切。そのように書かれていた。同感である。長い時間をかけて粘り強く取り組むこと。その時間を過ごしている間に、考えが深まり、調査も進み、理解が深まる。

 私も以前から同じように感じていたので、この記事を読みハッとした。私は、校長になる前は数学の教員だった。授業をし、テストを作り、問題集ノートをチェックしていた。問題集ノートを見ていた際に気になっていたことは、わからないとすぐに答えを見る人って多いんだなという点である。答えを見ないでどのくらい考えたのだろうか。難しい問題だと、解き方がわからない場合もある。すると、先程もふれたようにもやもや感が生まれる。わからない状態を一刻も早く脱したい。そう思うのは自然なこと。そこで問題集についている解答を見てしまう。解答を見るのがダメだというわけではない。限られた時間の中で多くのことをこなさなければいけないので、一つの問題に長い時間をかけるわけにはいかないのも理解できる。どこかで諦めて解答をみることもあるだろう。だが、最終的に解答をみるのであっても、それまでにどのくらい自分で考えたかが、大切である。すぐに答えを見ず、いろいろな面から多角的に見つめることが大切。前からそのように思っていたので、今回のネガティブ・ケイパビリティの話を読み、これかと得心した。

 ネガティブ・ケイパビリティを育てるコツ。それは、すぐに答えを見るのではなく、まずは自分で考えてみる、自分で調べてみることだ。答えがわからない時間を過ごすことになるが、そのモヤモヤした時間とうまく付き合いながら、ネガティブ・ケイパビリティを育てて欲しい。多角的に物事を見つめること。時間をかけてああでもないこうでもないと考えること。それは、間違いなく将来につながるはずだ。

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