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校長コラム

リンゲルマン効果と体育祭

 リンゲルマン効果、私は初めて目にした言葉だ。調べてみると、なるほど確かにそういうことはある、と思うものだった。フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンという方のお名前を取ったもので、別名「社会的手抜き」と呼ばれるものだそうだ。効果という名前からはプラスイメージを連想するが、実はそうではない。内容は、「集団で作業を行う場合、メンバーの人数が増えれば増えるほど、一人当たりの貢献度が低下する」、心の中に「他の人が頑張るから、自分は力を抜いて大丈夫だろう」という気持ちが無意識のうちに働くことを、リンゲルマン効果と言うそうだ。リンゲルマン先生が、今から100年前に指摘したという。リンゲルマン先生は農学者だが、これは心理学の分野である。そしてリンゲルマン先生はただ漠然と指摘したのではなく、綱引きで確かめた結果、そのように指摘したと言われている。今から約100年前、治験者に綱を引かせ、どの程度の力を出しているかを計測する実験をしたそうだ。その結果、1人で綱を引いた時の力を 100%とすると、2人で綱を引いた時の力は93%に減少し、さらに3人で綱を引いた時は 85%、8人では 49%に減少したという。そのような実験をしたということは、既に仮説を立てており、それを裏付ける実験を行ったのだろう。

 本校の体育祭が、5月下旬に行われた。例年盛り上がる学校行事の一つである。中1から高3まで中高合同で行い、6学年が学年対抗戦を繰り広げる。全員が何かしらの種目に出場する。今年は中3から高3までの4学年が三つ巴ならぬ四つ巴の戦いを繰り広げ、ハラハラドキドキの展開であった。最上級生の高3が1位になるという予定調和は一切ない。9時の競技開始時点では横一線のスタート、そこから得点を積み重ねていく。

手前の学年も向こうの学年も、共に上手な引き方。このようにはなかなか引けない。

 その競技の一つに綱引きがある。綱引きは体格の差が影響しやすい競技で、中学低学年が高校高学年にはなかなか勝てないが、隣り合う学年同士ならば、いい勝負になる。そして今年の綱引きの順位は、学年順にはならなかった。

 負けた学年の悔しさは、想像に難くない。一方で、対策が立てにくい競技であることも事実だ。一人ひとりの成果が見えにくいのが、一つの理由だろう。リンゲルマン効果が出やすいかもしれない。どうしたら綱引きで強いチームを作ることができるのか。たかが綱引きだが、特効薬が見えない以上、これは社会人が向き合うビジネスモデルと何ら変わらない。どうしたらリンゲルマン効果が薄まるか。それを考えて欲しいと思い、6月の高2以下の校長講話で、このことを話題にした。

 サイトを調べてみると、過去に団体スポーツをしたことがある人は、このリンゲルマン効果が働きにくいとの研究結果もあるそうだ。桐朋女子の生徒が、全員、団体スポーツを経験するわけではない。が、学年全員という大きな団体で臨む体育祭は、その経験にあたるのかもしれない。そのように感じたのが、桐朋女子が高大連携協定を結んでいる大学とのミーティングでのやりとりだ。学長や学部長の先生も交えての会議だったが、そこで大学側から「ゼミに桐朋女子出身の学生がいると、とてもやりやすい」という発言があった。「誰もなり手がないとゼミ長に立候補してくれる。誰も発言しない時間が続くと、突破口を開いてくれる」のだそうだ。学長からは、前の勤務先で秘書役を担っていた方が桐朋女子の出身者で、いつも先を見て「あれをやったか、これはどうなっているか」と確認されると、ニコニコしながらおっしゃっていた。いいコンビだったという。

 桐朋女子は、学校行事が盛んである。それも教員が引いたレールの上を走るのではなく、生徒が主体的になって考える場面が多い。今、この場面で、自分は何ができるかを考えることが多い。みんなで力を合わせると、大きなことができることを経験している。そのような経験を数多く積むからこそ、大学に行っても社会に出ても、自分ができることを追求するのだろう。リンゲルマン効果は、薄まると信じたい。

 体育祭当日の戦いも手に汗握るが、実はその準備の過程にも、熱いものがある。応援交歓ができるまでの様子をまとめた動画は、学校説明会の本編が始まる前に、ご覧いただいている。部内者の私たちが見ても心に響くものがある。それは、そこに本物があるからだろう。

 今年の体育祭は、高3が優勝した。僅差だったが、総合力で一日の長があった、ということである。練習は散々雨に泣かされた今年だったが、本番だけは晴天に恵まれた。晴天のもと、大声での歓声が飛び交い、皆、躍動した。コロナで縮小開催したブランクを完全に取り戻した、桐朋女子本来の体育祭であった。

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